孤独は狙われる話・”場”について

先日、基山町で行われた「MEET UP!SAGA」の取材に行きました! その記事を書いている最中に思ったこと、子どもの頃実際に体験した話を思い出しながら書いてみようと思います。

昔、町の中心地にほど近い場所に元スーパーだった広い空き店舗がありました。そこにある日突然、遠くの街からきた業者が「座ると電気が流れ、健康になる椅子」(というか椅子にひくシート。以下電気椅子。)を体験できる期間限定の店舗を作りました。

その会場にいたのは主に二人の社員。

・常時、電気治療をうけているお年寄りの前でお話をする司会的な人(40代後半)
(電気椅子は20台ほどあり、その後ろに順番待ちのパイプ椅子が30脚くらいあります。)

・受付でハンコを押してくれるアシスタント的な人(30代前半)
(そこに通う人は、ラジオ体操のカードのように行くたびにハンコを押してもらっていました。
ハンコをためたからといって特典があるわけではありません。「たまったら自腹でハワイに行ってね」とのこと。)

多分、その店舗ができた直後は町の人達も訝しんでいたんじゃないかと思います。
どこの誰かも知らない人たちがいきなり「健康にいい電気治療の椅子を試してください」とくるわけですから、高額商品を売りつけられるかもしれない、と警戒しますよね。(実際、過去に安価な景品で人を集めて布団などを売りつけようとした業者が町にきたことがあるらしく、お年寄りの間で噂になっていました。)

しかしながら、その業者は何ヶ月たっても電気椅子そのものを売りつけようとはしてきません。
朝から夕方まで、1回20分程度のローテーションで電気椅子に座ってもらい、話を聞いてもらうだけ。司会の人は、綾小路きみまろばりの卓越した話術でお年寄りたちを楽しませます。毎回内容は似たりよったりですが、だいたい健康について、長生きについて、電気治療がどれくらいそれに貢献するのか…といった感じ。軽妙に加齢をジョークにする語りにどっかんどかん笑いが起きます。

ほどなくお年寄りたちは警戒心をほどき、人が人を呼び連日大盛況。
2人の社員は「まー坊、やっちゃん」とあだ名で呼ばれるようになりました。

私は当時小学校中学年。祖父母に連れられ、2つ下の弟と一緒に何回も通いました。
私は健康とか加齢とかよくわからないし、おじさんの話などどうでもよかったのですが周りの大人たちがとても楽しそうだったのをよく覚えています。(唯一嫌だったのは、電気椅子に座っている人に触るとばちっ! とかなり強めの静電気が起きたような衝撃があることです。うっかり触ると大変。)

そうこうして、業者が町に根付いて数ヶ月たった頃ある日。
突然、「あと1ヶ月でこの町を離れます」とアナウンスがありました。戸惑うお年寄りたち。こんなに楽しい場所がなくなってしまうなんて…。そこではじめて、「もしよかったら買ってね」と電気椅子のカタログが配布されるわけです。




***

数日後、私は祖父母と弟と4人でそばを食べにいきました。
そこで祖父が一言、

「おれはあの椅子を買う」

と宣言したのです。



驚きました。それは子どもにもわかるくらい高価なものであり、まさか買う人はいないだろうと思っていたからです。

私の予想に反して祖父だけではなく、母方の祖父母も、親戚のおばさんも電気椅子を購入…。
半年間ほぼ毎日電気椅子に座っていた人達にとって、すでになくてはならないものになっており「肩こりが治った」「ひざの痛みがひいて歩きやすくなった」など効果を感じでいたのでしょう。
(それは実際効果があったのか、プラセボ的なものなのか今でも謎)

何より、人々はその業者の二人のファンになっていたのですから、その人達から買いたい! という強い動機があったんだと思います。おそらく町全体で200台近く売れたのでは…。

その業者が町を離れる最期の日、ジュースや食べ物を持ち寄り壮大な送別会が開かれました。
青い山脈など往年の歌謡曲が流れる中、涙ながらに別れを惜しむお年寄りたち。

「また、どこかでお会いしましょう!」 




***

—— 長年、この一連のことは忘れていたのですが数年前に映画「悪人」の冒頭で全く同じようにお年寄りを集め、面白おかしい話をし布団を売りつける…というシーンを見て「あーーー! これ! 見たことある!!」と思い出したのです。

映画では、松尾スズキ演じる業者がたいそう悪く描かれていましたが私が見た業者は悪徳…ではなかったとは思います。(かなり高価な商品なのでがんばって探したらもっと安くて似たような効果のある商品があったとは思う。。)

しかしながら、その業者が町のお年寄りたちに「電気椅子を体験しにいくという目的があり、行くと必ず知り合いの誰かがいて楽しく、予約なしでふらっと行ける場を提供していた」ということは紛れもない事実であり、実際それで生活が充実した人も多いと思うのです。

私の祖父母は、単発の仕事や平日学校が終わってからの孫の世話があったのでそうでもなかったかもしれませんが、中には家にひきこもりがちで、孤独を感じていた人もいるでしょう。その人達の「孤独」をターゲットにしていた業者の人たち。短期間で数千万~一億円売り上げるのですからビジネスの手腕としてはただただ脱帽です。

ちょっと前の私なら、「そんなものにだまされて」と馬鹿にしていたかもしれません。
でも、引っ越してきたばかりの街で産休・育休中、家にひきこもりがちで孤独感を感じながら
生活していた私は電気椅子の体験ショップにせっせと通っていた人たちを笑うことはできません。

0歳児を連れて近所の公民館の子育て支援事業にも行きましたが、毎週水曜日のみ。
当時私は「早く水曜日こないかな」と思いながら生活していました。
(常設の子育て支援センターもありますが、訪れる子どもの年齢層が広く、またどういった場所なのか具体的なアナウンスが検診の際などにもないのでハードルが高かった。育休の後半少しだけ行きましたが復職してからは足が遠のきました…。)

また、私は通いませんでしたが住んでいる街は習い事・スクールも多く0歳から通える知能開発系の幼児教室や、ベビースイミングなんかもあります。もちろん子どもの成長のプラスになるものだとは思いますがそれ以上にママ達の孤独感をやわらげているに違いありません。ただ、何年も通うと電気椅子を軽く超えるほどコストが高いものもあります。

***

そんな二つの経験を通して、やはり無料または、ローコストで通うことができるそういった”場”が町にあるといいなと思います。私は今回の移住で実家近くにUターンするわけなので、両親や祖父母、弟、地元の友人がいます。でも移住してきてまだ知り合いがいない人はかなり孤独を感じるのではないか……。

そういったことから基山町の取り組みはすごくいいなと思うのです。

あと、子育て支援センターとか、公民館でのお年寄り向けのイベントとか、色んな自治体で取り組まれていると思いますが世代によってわける必要ってあるかな? とも思います。子どもも、ママも、おじいちゃんおばあちゃんも、皆でわいわいすればいいじゃないか。

また可能であればそこでなにかしら役割があるといいのではないかと思います。人から与えてもらうだけではなく、人のために自分が与えることがあるというのは大きな生きがいをもたらします。

***

電気椅子の後日談ですが、類似の業者が町で似たようなことをやっていましたがまったく流行らず、いつの間にかなくなっていました。単に商品を売ろうとしただけで、”場”になることができなかったのでしょう。

私はしばらく祖父母の部屋で気まぐれに使用していましたが、映画「グリーンマイル」を見て以来、電気椅子を見るだけで恐怖の処刑シーンがよみがえり、二度と座ることはありませんでした。祖父母は真面目に20年ほど使用し寿命がきたので廃棄したようです。20年毎日使うんだったらコスパがいいのかも……いや、でも今親が買おうとしてたら止めるね!

今、あの時のことをどう思っているか町のお年寄りに聞いてみたらおそらくほぼ全員が「楽しかった」と答えるのではないかと推測します。(鬼籍に入った人も多いですが、、)

私は考えるごとにじんわりと悔しく、そしてうらやましい、複雑な気持ちになっています。

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